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レポートの実例

経済展望ミニ情報(2020年7月1日)

昨日、「マーケットに何か嫌な雰囲気が漂っている。とくに新興市場には、細心の注意を払っていただければと思う」とお伝えしたが、その兆候は昨日の午後の取引開始直後に強く表れたようだ。マザーズ市場の中核銘柄となったアンジェス(4563)がストップ安水準まで急落し、その流れが新興市場全体に広がったのだ。

しかし、多くの個人投資家にとっては幸いなことに、アンジェスが急速に戻すと同時に、新興市場全体も落ち着きを取り戻した。昨日のマザーズ指数は一時47ポイント安まで下げたが、6ポイント安まで引き戻すことができた。

しかし、油断してはならない。この動きには、2つの見方があるからだ。ひとつは、新興市場の強さを示したという見方、もうひとつは、新興市場の急落リスクは半端でないことが認識されたという見方だ。前者と後者のどちらが正しいのか、それは誰にもわからない。

ちなみに、「経験」より「歴史」を重視する弊社では、どちらかというと後者の見方を持っている。「歴史」に基づいて失敗したのであれば、それは仕方ないという考えているところだ。

最後に念押ししておくと、アンジェスの治験が成功するのか、それも誰にもわからない。マーケットは成功するという前提で動いているので、その点は押さえておく必要があるだろう。

経済展望ミニ情報(2020年6月24日)

米国株が底堅い。新型コロナの新規感染者数が再拡大する傾向にあるものの、そんなことは関係ないといった局面にあるようだ。

米国の新規感染者数(7日移動平均)のこれまでの推移を振り返ると、4月9日に31630人とピークを打ったあと、6月9日に20357人にまで減少した。しかし、経済活動の再開に伴い、6月22日時点で28044人(暫定値)にまで拡大している。

日本でも新規感染者数が東京を中心に再び増加傾向をみせている。経済統計には表れない廃業や失業が増加しており、第1波が収束しないうえに第2波も警戒しなければならない状況では、今後数年は景気の回復が難しいと考えている。

それでも、これまで参考に挙げてきたテレワーク、遠隔教育、遠隔医療、宅配、巣ごもり消費などの銘柄群を全体相場の急落時や押し目で買えば、個々の差はあるものの、そこそこの値上がり益を享受できる環境にあった。

しかし、そういった銘柄群の多くが全体相場に比べて値上がりしてきたこともあり、そろそろ警戒感を高めてもよい段階に入ってきている。これは米国と共通することだが、3~4月の株価暴落時に投資を始め、株高で得た資金を他の銘柄に回す好循環が必要以上に続いているからだ。

「FRBや日銀が買い支えるから大丈夫だ」という考えから、己の実力以上にリスクを膨らませている新参の個人投資家が実に多い。今後数カ月は懸念材料が増えていく見通しであり、たとえばバイオ株が総崩れするようなことがあれば、個人マネーが逆回転を始めることになるだろうと心配している。

ライブドア・ショックの前の雰囲気に近いものを感じているところだ。

経済展望ミニ情報(2020年6月5日)

日経をはじめ様々なメディアでは最近、米国株が上昇するたびにその解説として「経済再開への期待」「ワクチンの早期開発への期待」といったキーワードが多用されている。

実際に、経済再開が今後着実に進むのか、わからない。米国の新規感染者数は10日前の水準と変わらず、横ばいが続いている。全米のデモ活動もあり、新規感染者数がさらに減少するのか、不透明な情勢だ。

ワクチンの早期開発にも赤信号がともっている。トランプ大統領の度重なるリップサービスから、マーケットはワクチンへの期待を過度に膨らませてしまったようだ。少なくとも年内の開発は難しいといわれている。

それでも、NYダウは27000ドルまで達しそうな勢いを保っている。昨日あたりからハイテク企業が売られ、資金難の企業が買われるといった、物色の変化が見られ始めているが、多くの投資家はリスクオン相場が当面続くという見通しのようだ。

日経平均も23000円に達する勢いを保っているものの、NYダウ先物の値上がり幅に対して、これまでよりも反応が足元では鈍ってきている。これは過去1~2か月では見られない現象だった。

そのうえ、日経平均をTOPIXで除したNT倍率は14.15倍(昨日の終値ベース)と、過去最高の水準に匹敵している。NT倍率が14倍を超えると高値が近いという経験則があるからだ。

前回も申し上げたことだが、23000円に接近する局面では、個々の買いポジションはできるだけ解消して備えたほうが無難だと考えている。

また、弱気型のETF(1357など)に妙味がありそうだ。今の価格は日経平均が24000円だった時よりも安い。この低価格は「株価が下がると考える投資家が少ない」という証であり、相場が反転した時にはそれだけ妙味が増すということだ。

日本でも緩みが出たせいか、東京の感染者数が再び増加傾向にある。仮に日経平均が23000円まで上昇するとすれば、それはコロナ前の水準に戻したことになる。弊社では想像できない領域になるので、その時は個々で持っている買いポジション(弱気型ETFを除く)はすべて外したほうが無難だと考えている。

経済展望ミニ情報(2020年6月3日)

米国の市場関係者によれば、足元の米国株の上昇は大部分が空売り勢の買い戻しで説明できるという。NYダウ先物に連動している日本株も、海外投資家の買い戻しに加えて、国内の空売り勢が追随を余儀なくされている。

こういった需給相場が続くうちは、悪材料に反応しない地合いが続くだろう。しかしその一方で、米国内で悪材料のマグマは蓄積されつつあるようだ。

米国でのレムデシビルの第3段階の治験は、効果が限定的だったという。やはり、多くの専門家が言うように、ワクチンや治療薬が1年以内にできる可能性は低いということだ。

全米140以上の都市で広がるデモ活動の悪影響も軽視できない。それは、経済的な悪影響だけでなく、新型コロナの感染が再拡大するリスクが高まるからだ。スペイン風邪が米軍の兵士から欧米の人々に広がったのは、当時の反戦デモや労働ストライキを通してだった。

歴史の教訓が教えるのは、人が密集する活動が感染拡大を引き起こすということだ。今回もその教訓は生かされないのかもしれない。実際に、足元ではロサンゼルスの1日あたりの新規感染者が過去最高となっている。

経済展望ミニ情報(2020年4月18日)

昨日はマーケットが始まる前に2回、始まってから1回のミニ情報をお送りしたが、おさらいをすると、マーケットを安定させる2つのポイント(4月15日のレポート参照)が出そろったと申し上げた。

1つめのポイントは、米国の新規感染者数の拡大ペースがピークを打ったかもしれないということ、2つめは、レムデシビルのような有効な治療薬に関する情報が流れてきたということだ。

昨日の朝にNYダウ先物が24000ドルを超えてきたのをみて、まずはじめに思ったのは、マーケットが安定する兆しが見えてきたということだ。米国株はアビガンの報道があった時にはほとんど反応しなかったが、今回のレムデシビルにはしっかりと反応しているのだ。この違いは大きい。

そのうえで勘が働いたのは、マーケットの物色が変わってくるかもしれないということだ。米国株でいえば、これまで買われてきたアマゾンやネットフリックスが利食いに押される一方で、これまで沈んでいた個別株が浮上してくる可能性が高まっていくだろうというわけだ。(実際に、昨晩の米国マーケットはそのように動いていたようだ。)

だから昨日の午前中に、日経平均が3月の安値を付ける前後から勧めてきた、テレワークや遠隔技術、その他のコロナに強い業種の個別株を売って、ポジションの大幅な整理をするように申し上げた次第だ。

とりわけテレワーク関連では、ソリトンシステムズ(3040)とアセンテック(3565)などは東証1部の銘柄であるにもかかわらず、株価が一昨日の時点で3月の安値から2倍になっていた。昨日に高く寄り付いたのをみて、コロナに強い銘柄がいつ利食いに押される地合いになってもおかしくなかったのだ。

日経平均は大台の20000円や半値戻しの20300円が射程圏に入ってきているが、マーケットで長生きできる秘訣は「あまり欲張らない」ことだ。日経平均が20000円に迫ってきている状況では、ETFのポジションはすべて整理してもよいと考えている。(あくまで個々の判断なので、決して無理には勧めない。)

3月が激動のマーケットだったことを考えれば、4月中旬の時点でポジションをなくすことができる意義は大きい。仮に3月のような暴落が再び起こったとしても、いっそう対応しやすい状況になっているからだ。要するに、今後の戦い方が物凄い楽になるというわけだ。

まだ油断ができないのは、米国の新規感染者数の拡大ペースが完全にピークを打ったとはいえないことだ。足元の16~17日の新しいデータを加味すると、米国政府の見解とは異なり、まだ一進一退が続いているというのが正しい現状把握といえるだろう。

さらに、日本はこれから感染が拡大していく状況にあり、緊急事態宣言が5月6日を以って解除されるとはとても考えられない。今の日本株が企業の業績悪化をどの程度織り込んでいるのか判断できないが、完全に織り込んでいるということはないだろう。

16日のミニ情報でも申し上げたことだが、3月~4月初めには「今は10年に1回の激動の相場だ」とお伝えしてきた。しかし、新型コロナ後の経済について冷静に分析をしてみれば、数年以内に今回とはまったく違う理由で、同じ深度の暴落が起こるのではないかと考えている。

もっともその前にも、新型コロナの第2波や第3波の大きさによっては、それなりの暴落が起こるかもしれない。今後のマーケットは、安定した時期を挟みながら、不確実性が高い状況が何回も起きると覚悟しておいたほうがよいだろう。

なお、3月以降、10年に1度の非常事態としてほぼ毎日更新してきたが、マーケットが少し落ち着いてきたので、更新のペースを少し平時の状態に戻していきたいと思っている。もちろん、マーケットが再び急変するようなことがあれば、更新の頻度は上がっていくのでご安心いただきたい。

経済展望ミニ情報(2020年3月14日)

永久保存版・投資の王道(2)でも申し上げているように、これまで世界の政治・経済のリスクを点検しながら、投資のリスクをコントロールしてきたつもりだ。

景気拡大と金融緩和の双方が続く局面では、「資金枠を積極的に活用(保有比率90%~100%)」し、景気拡大と金融引締めが同時に進む局面では、「資金枠の活用を控えめ(保有比率30%を上限)」にするという姿勢を基本としてきた。だから2018年10月末時点では、現金比率100%にすることができたし、2019年1月末時点では、資金枠の活用の上限を30%にして、慎重な運用を心がけるようにできた。

さらにその次にやってくる、景気後退が予想される局面では、「資金枠をすべて空けて、余裕を持って待つ(現金100%)」予定だった。だから2020年後半からは、景気後退に備えて現金比率100%に進めることは、昨年の段階で申し上げていたとおりだ。

ところが、新型コロナウィルスが発生した段階で、マーケットが世界の景気後退を織り込むのを予測することができなかった。(米国に感染が拡大するのを予測することができなかった。)今回の暴落に対処するにあたり、「現金70%超」と「現金100%」では対処の仕方が変わってくるし、余裕の持ち方も変わってくる。ここが非常に残念に思っているところだ。

前回・前々回のミニ情報で申し上げたとおり、PBRがリーマン・ショック期の0.8倍程度の水準では、景気後退を織り込みつつあるので、個人的には全力買いしたいところだ。より慎重に対応するならば、PBR0.8倍~0.7倍に広げてポジションを拡大していくのもいいだろう。

ただし、目先の株価の乱高下を無視して、1年後の株価を見据えて買わなければならない。これは、通常の投資家にとって恐怖心との戦いになる。(もっとも、短期的に急反騰する局面があれば、こまめに利益確定するケースもありえる。)

完全な安全策で行く場合、新型コロナウィルスの感染拡大が終息する見通しが立った時点で、ポジションを拡大するという方法もある。当然のことながら、その時は株価が底値から相当上昇しているので、ポジションは前者より抑え気味にする必要があるだろう。

昨晩のNYダウは2000ドル近く上昇し、過去最大の上げ幅を記録した。しかし、NYダウにしても日経平均にしても、これからの各国の財政・金融政策の効果、感染拡大の動向がはっきりしないと、底値を確認したとはいえない。

おそらく、底値を確認するまでに、その過程では下へ向かう局面が何回もあるだろう。日経平均が昨日の安値を底に下値を切り上げていくのか、あるいは新しい下値を模索してくるのか、それは誰にもわからない。

経済展望ミニ情報(2020年3月12日)

トランプ政権が米議会指導部に給与税の免除など経済対策の策定を要請したが、マーケットでは民主党が賛成しないと判断し、失望売りが続いている。2018年から施行した大型減税を大きく上回る規模のため、共和党内でも慎重な意見が多いようだ。与野党が妥協できるのは、失業保険の拡充と中小企業への資金繰り支援だといわれている。

本日もNYダウ先物が1000ドル超の下落をする局面があった。日経平均はNYダウ先物の動きに相似形のように連動している。

ゴールドマンサックスは米国の成長率が2020年1-3月期、4-6月期とも0%台に落ち込むと予測する。米国株は景気後退を織り込みに行っているのだろうか。NYダウ先物は22000ドル台まで下落、景気後退の初期と同等の株価水準まで来ているといってもいい。

日経平均のPBRは0.9倍を割れてきた。あとはリーマンの0.81倍にどの程度迫るのかだが、さすがにそこまで来たら全力買いしたいところだ。

2020年1-3月期の企業業績は、重厚長大型の産業を担う企業はもちろん、飲食、旅行、レジャー、消費関連(巣ごもり消費関連を除く)など、全体的に厳しいだろう。おそらく、自粛要請がなくなったとしても、4-6月期も厳しいのではないだろうか。そんな簡単には国内外の消費は戻らない。

長期化することに備えれば、テレワーク、遠隔操作、5G、巣ごもり消費など、需要が増加する関連は限られている。

経済展望レポート(2019年12月18日号)

今年も残りあと2週間足らずとなりました。来年の世界経済や株式市場はどうなるのでしょうか。そこで今回のレポートでは、(1)世界経済の構造的な変化、(2)世界経済の大きな流れ、(3)米中合意で中国景気は上向くのか、(4)来年は米欧摩擦も要注意、(5)来年の円相場の見通し、(6)米国の株式市場の見通し、(7)日本株のトレンドを決めるもの、(8)日本の株式市場の見通しと1月上旬までの投資戦略、の8点について述べたいと思います。

まず(1)の「世界経済の構造的な変化」については、・・・(以下中略)

続いて(6)の「米国の株式市場の見通し」については、今年を振り返ってみると6月に大きな見通しの変更を行いました。1999年の「予防的な利下げ」に倣って3回程度の利下げがされるという見立てから、米国株は強い基調を取り戻し、再び最高値を更新するだろうとしたわけです。12月のFOMCでは金融政策の現状維持が確認され、当面は様子見に転じる方針が示されましたが、短期国債の購入は少なくとも2020年4-6月期までは続ける方針で、FRBの保有資産は拡大の一途をたどっていきます。

FRBの実質的な量的緩和に加えて、ECBも量的緩和を再開するので、2020年~2021年まで世界の中央銀行による資産買い入れ額は増加し続けていく見通しにあります。そのうえ、少なくとも2020年の前半までは世界の政策金利は低下傾向となり、過去10年でもっとも緩和的だった状態に戻ってしまうのです。私たちが注意しなければならないのは、減速したとはいえ景気拡大期のもとで緩和政策を緩めようとしない副作用として、株式市場がミニバブル化の様相を呈し始めているということです。

先週の時点で、米国の主要500社のPERは17倍台後半と、約2年ぶりの高さに上昇しました。過去10年で見ると17倍台は上限に近いうえに、企業の増益率の減速も想定されているので、米国株がここから10%高を目指すのは相当に難しくなってきているように思われます。好調が伝えられている年末商戦が業績に寄与する10-12月期の1株当たり利益も、前年同期からわずかながら減少する見通しだということです。増益率の鈍化が見込まれているなかで、業績の拡大が伴わない株高には危うさが付きまとうという教訓を意識しなければならないでしょう。

2019年の米国株では、たとえばS&P500は25%超も上昇し、苦戦した昨年とは異なる展開を見せました。業種別での上昇率トップはITの40%、2位は通信サービスの30%で、ITセクターの上昇率が際立っていたのです。ところが、2020年はITセクターでの懸念がいっそう高まる年になりそうです。というのも、米国のITセクターは売上げの7割程度が海外であり、もっとも海外依存度の高いセクターになるからです。そしてITセクターは米中の摩擦に加えて、欧州との摩擦も新たな重荷になるという見通しにあります。

そのうえ、ニューヨーク連銀の調査によれば、中国からの輸入品の価格はほとんど下がっていないので、米国の企業や消費者が関税の上乗せ分を負担しているという結論が導かれています。歴史が何度も繰り返すように、多くの投資家が今の米国株が割高の水準にあると理解しているにもかかわらず、「持たざるリスク」が強く意識される状況下では、通常よりリスクを取ってでも市場に参加せざるを得ないのです。米国株の上昇はあと5%程度が限界(NYダウで3万ドル手前、S&Pで3400ポイント手前)と考えて、来年2月~3月くらいを目安にリスク管理を考えていきたいところです。

続いて(7)の「日本株のトレンドを決めるもの」については、日経平均株価は2019年8月の安値2万110円から、なぜ12月には高値2万4091円を付けるまで上昇することができたのでしょうか。この質問に対する答えとしては、「米中貿易交渉がまとまることで、世界景気や企業業績が回復するという期待が高まっている」といった解釈がよく聞かれます。確かに、この解釈が間違っているとはいえません。しかしながら、もっと厳密な答え方をするとすれば、「海外投資家が日本株を買い越すようになったから」としたほうが良いでしょう。

念のための確認として申し上げますが、海外投資家というのは、主に米欧の投資信託や年金基金、ヘッジファンド、中東のオイルマネーなどのことを指しています。海外投資家が少し本腰を入れて日本株を買い始めれば、日本株を大きく上昇させるのは簡単なことなのです。日本株の売買代金シェアは海外投資家が6割~7割を占めているため、日本株のトレンドは海外投資家が左右しているといっても過言ではありません。たとえば、2019年の月別の「投資部門別売買代金差額」(東京・大阪・名古屋の3市場における個人・法人・海外投資家などの買い越し額・売り越し額を示したもの)を見れば、そのことが一目瞭然でわかります。

2019年の投資部門別売買代金差額の動向を振り返ると、海外投資家は5月から9月まで5か月連続で売り越し、その売り越し額の累計は2兆1993億円にもなりました。その一方で、この間に法人が2兆6840億円を買い越しましたが、それは企業の自社株買いが多かったためです。海外投資家は10月から11月の2か月間で買い越しに転じ(正確にいえば、9月の中旬から買い越しに転じていました)、買い越し額の累計は2兆1875億円にもなりました。その一方で、法人は8686億円、個人は1兆4999億円、それぞれ売り越していました。

これに対して、日経平均は2019年1月から9月までボックス圏で推移していました。8月の上旬に底(安値2万110円)を打った後、9月から10月にかけて上昇に転じ、11月から12月(17日時点)にかけて高値を切り上げてきています(足元の高値は12月17日の2万4091円)。要するに、海外投資家が買い越し基調になれば、上昇相場になるという経験則が今回も成立しているといえます。海外投資家が買い越しに転じれば、日本株が上昇トレンドになるというのは、2000年代初めからずっと続いている傾向であるというわけです。

投資主体別の売買代金差額については、東証が前の週の売買代金の買い越し額と売り越し額の集計結果を毎週木曜日に公表しています。また、月間の売買代金差額についても、東証が毎月最初の木曜日に前月分を公表しています。週間・月間ともに投資主体別売買代金差額は、海外投資家の動向を知るうえでたいへん役に立つデータです。このことをすっかり忘れている方もいらっしゃるかもしれませんので、ぜひ海外投資家の動向には今後も注意を払っていただきたいと思います。

最後に(8)の「日本の株式市場の見通しと1月上旬までの投資戦略」については、日経平均の予想PERを振り返ってみると、2018年10月にアベノミクス以降の高値2万4270円を付けた時が14倍弱でした。その後はずっと14倍が大きな壁として意識されてきましたが、最近の上昇によって今はその14倍を上回ってきています。これは、世界の金融緩和と日本の大型補正(危機時に行ってきた規模と同等)が上手く相乗効果を発揮した結果といえるでしょう。

その一方で、新興市場は伸び悩んでいます。日経ジャスダック平均は年初来高値を更新したとはいえ、2018年の高値に達するにはあと15%程度の上昇が必要ですし、東証マザーズ指数にいたっては2018年の高値まで60%程度の余地を残しているのです。さらに問題なのは、日経ジャスダック平均と東証マザーズ指数の間でも二極化が進んでいて、東証マザーズ指数は低迷から抜け出せていません。個人投資家の傷はまだ癒えたとはいえないようです。

市場関係者の間では、とりわけ2018年末の株価急落で痛手を負って挽回できていない個人投資家が想像以上に多いということで、足元の株高で余力が出てきている投資家はほんの一部であるといいます。そういった点では、2018年の秋口からノーポジションに向けた提案をしてきたことが、今になって大きく生きていると実感しています。景気や企業業績の改善を期待して、目先の株価にあまり不安はないという見解が多いものの、2019年2月~3月に向けてリスク管理の度合いを調整することも視野に入れて対応してきたいと考えています。

ETF戦略については、12月5日のミニ情報のなかで、2万4000円を想定したポジション整理をお勧めしたところですが、13日のミニ情報でお伝えしたとおり、年末年始が近づいていることもあるので、新しいポジションの構築は年が明けてから考えていくつもりです。

少なくともETFに関しては、年末年始は何も心配せずに過ごしたほうがいいでしょう。仮に年末年始が利益拡大の方向へ動いたとしても、あまり気にしないことが肝要だと思っております。

個別株戦略については、13日のミニ情報でお伝えしたとおり、●●●●●が6800円に接近する過程で利益確定売りが強くなったように感じたので、個々の判断で持続してもいいですし、利益確定してその後の値下がりで買い戻してもいい、という判断をしましました。4300円から6800円近くまで6割弱上がってきているので、このへんの調整はやむをえないでしょう。また、●●●●●●●●●は短期間で4割も上昇し過熱感があったので、11日のミニ情報のなかで、ひとまず利益確定をして、再び調整する局面で買い直すことをお勧めしました。今のところ、その方針に変わりはございません。

その一方で、●●●●●●が上にも下にも動かず悩ましいところです。12日に出来高が前日比で11倍に膨らんだものの、何故か平穏な展開に終始していました。もう少し様子を見て次の判断をしたいと考えております。2020年は(1)から(4)まで述べた流れを想定していて、2019年よりもいっそうの臨機応変さが求められるだろうという感触を持っております。年初の急落以降は平穏な相場が続いていますが、波乱があった時に冷静に対処できるようにルールを守りながらリスク管理に努めていきたいところです。

経済展望レポート(2018年12月10日号)

本年の最後を締め括ることとなる今回のレポートでは、(1)米長期金利が再び2%台へ、(2)長短金利の逆転、(3)OPECの先行き、(4)米中の妥協はあるのか、(5)中国経済の苦境は続く、(6)2019年は円高の年、(7)セオリーが通用しない日本株、(8)10倍株は結果論、(9)相場勘の話(続編)、の9点について簡潔に述べたいと思います。

まず(1)の「米長期金利が再び2%台へ」については、パウエルFRB議長が10月初旬のFOMC後に、政策金利は「中立金利には距離がある」と発言したのに対して、・・・(以下、中略)

続いて(6)の「2019年は円高の年」については、11月のFOMC以降、米国の利上げが想定以上に早く終わるとの観測が広がっていることと深く関係があります。従来のFRBの利上げのシナリオでは、2018年にもう1回、2019年に3回、2020年に1回という内容でしたので、現在の政策金利の年2.00~2.25%は将来的には3.25~3.50%まで引き上げられるという見通しでした。ところが、FOMCの議事要旨に基づけば、多くの市場関係者が2019年中にも利上げが打ち止めになる可能性が高まってきていると見ているのです。

先ほど、「過去の経験則は少しだけ参考程度にするくらいの姿勢でいい」と述べましたが、FRBの利上げが終了し、利下げが始まるまでの局面においては、円高・ドル安の傾向が徐々に強まっていくという経験則があります。大きな流れに従えば、この経験則は信用できると思います。そのうえ、FRBが利下げに転換する局面では、日銀は円高を防ぐ手段をほぼ使い果たしてしまっているので、さしたる抵抗感もなく円高が進みやすいという状況は押さえておかねければなりません。ここから2年~3年のスパンで見れば、海外の投資家が投機的な円買いを進めてくる環境は整いつつあるように思われます。

さらには、貿易に関する調査を担当する米政府機関である米国際貿易委員会が12月6日に開いた公聴会では、自動車産業の労働組合が日本に対し通貨安誘導を禁止する為替条項の導入を求めています。同委員会は2019年1月を目途に報告書をまとめ、米通商代表部(USTR)に提出しますが、来年の1月に始まる日米のFTA交渉(日本政府はTAGと言っていますが)では、為替条項の是非が大きな議題になってくる可能性が高まってきています。日本の投資家は海外の投資家以上に、米国の利上げの終了が早まることをネガティブに捉える必要があるのではないでしょうか。

次に(7)の「セオリーが通用しない日本株」についてですが、(6)との関連において、過去の経験則を振り返ってみると、米国の利上げの終了から利下げの開始までの時期は、米国の株価が天井を付けるタイミングとほぼ重なってきたといえます。そういった意味では、利上げの終了が早まることは、むしろ米国株にとって調整入りの兆しと捉えたほうが適当であるでしょう。大きな流れでいえば、(6)と場合と同じように、この経験則は信用できると思います。もちろん、米国株との連動性が強い日本株にも同じ傾向が見られるので、日米双方の株価はすでにピークを打ったと考えて問題ないでしょう。

過去5年間で10-12月に海外投資家が大幅に買い越す傾向が続いていたことから、市場関係者のあいだでも11月上旬までは年末ラリーへの期待が大きかったのですが、海外投資家は11月第4週も2101億円を売り越し、10月以降の売り越しが5500億円超にまで拡大しています。先週あたりからは、海外でも中長期の投資家が大型株を中心に売ってきているため、10-12月は売り越しのままで終わる可能性が高まってきているのです。海外の株式ファンドの年初からの運用成績はマイナスとなっており、資金流出に備えた現金化はまだ続くと見たほうが無難でしょう。いずれにしても、来年以降の日本株は、通用しそうなセオリーと通用しないセオリーを吟味しながら、柔軟に対応していく必要がありそうです。

次に(8)の「10倍株は結果論」については、毎年、秋口から年末に向けての時期に、マネー誌などから「10倍株を推奨してほしい」という依頼を受けることがあります。しかし、経済構造やビジネスモデルが目まぐるしく変わっている現在において、10倍に化ける銘柄などわかるはずがありません。10倍株は見つけようとして探せるわけではなく、10倍になったのは結果論にすぎないというのが、私の考え方です。

そういった意味では、人生に一度でも10倍株を経験できれば大きな幸運に巡り合ったと思うことができるし、そもそも10倍になるまで持ち続けることが難しいのではないかと思ってしまいます。仮に10倍まで持ち続けることができた個人投資家がいたとしたら、その成功体験から抜け出すのは容易ではないでしょう。大成功の後は、売るタイミングがわからなくなってしまうかもしれません。10倍株を連発しているなどという話には、決して近づいてはいけません。

最後に(9)の「相場勘の話(続編)」について、勘は危険を察知するのに適していると思われます。実は、この勘が2017年末と同じくらい肌感覚でわかっていたのは、2006年末~2007年にかけてです。11月13日号で取り上げた「基本的な投資スタンスの確認」において、なぜ2007年~2013年をボックストレンドと下降トレンドの期間にしていたのかというと、2007年~2010年は激しい下降トレンドが来た後で、2011年~2013年はボックス相場になるだろうと考えていたからでした。

投資スタンスのベースとなっている書籍が出版された2007年6月当時は、経済メディアでは「過去数十年で世界経済が最も好調な時期」と囃され、株式市場では「株価はあと数年上がり続けるだろう」といわれていました。しかし実際には、2007年8月にパリバ・ショック、2008年9月にリーマン・ショックが起こってしまいました。相場勘と合理的な解釈が合致したからこそ、そのような判断ができたわけですが、投資でもっとも重要なのは、暴落によって大怪我を負わないということです。ひとたび大怪我を負うことになれば、元の状態に回復するまでに数年の期間を要するかもしれませんし、場合によっては再起不能に追い込まれてしまうかもしれないからです。

これに対して、近年で失敗だったと思うのは、トランプ大統領の誕生とその後の彼の政策の方向性がまったく読めなかったということです。合理的に考えれば考えるほど彼の考えはわからなかったばかりか、相場勘も思うように働かなかったからです。理解不能な大統領には、私もすっかりお手上げというしかありませんでした。しかし、その甲斐があって、2019年以降の展開は却って読みやすくなっていると思います。

年内のレポートは、この12月10日号を以って最後とさせていただきます。みなさんにおかれましては、現金を100%にしているでしょうから、枕を高くして安心して年末年始をお過ごしくだされば幸いです。

経済展望レポート(2018年2月12日号)

米国株が暴落をしました。2月5日にNYダウ平均の下げ幅は1175ドル(下落率は4.6%)と過去最高となったのに続き、2月8日には下げ幅は1032ドル(下落率は4.1%)と過去2番目になったのですから、株価が落ち着くまでには多少の期間が必要となるのはいたしかたないでしょう。

昨年の10月号から今年の1月号にかけて、米国株がかなり割高になっている(ミニ・バブルの状況にある)としたうえで、大幅な調整をする可能性が高いということを、再三にわたって述べさせていただきました。そこで今回のレポートでは、今後の教訓として押さえておくべき要点を整理したうえで、今後の対応方法について簡潔に述べておきたいと思います。

今後の教訓として押さえておくべき要点は、主に以下の5点になります。(これまでのレポートでも述べてきたことですが、再度、整理してまとめています。)

(1)ここ10年あまりの日経平均を主導しているのは、短期の投機筋や長期の投資家が入り混じっている現物の売買ではなくて、短期の投機筋が主体となっている先物の売買やそれに伴う値動きです。そういった意味では、一方向への買いや売りを継続して値幅を取りに行く投機的なファンドの動向は、相場の方向性を決定づけるうえでは非常に重要になっています。先物が主導している市場では、たった1日の急変動によって相場に変調の兆しが表れるということを、私たちはよく肝に銘じておくべきです。

(2)世界の株式の時価総額は90兆ドル近くに達していて、世界のGDPを大幅に上回ってきています。時価総額とGDPを比較するバフェット指標によれば、株価は2017年の春先以降、割高とされる水準で推移し続けていました。また、エール大学のシラー教授が考案した長期的な株価水準を示す指標によれば、2018年1月末時点のNYダウ平均のPERは33倍に達し、すでに2007年の住宅バブル時の水準を上回り、2000年のITバブル時の水準にも肉薄していました。

(3)1987年のブラック・マンデー、1997年のアジア通貨危機、2007年のサブプライム危機(あるいは2008年のリーマン・ショック)と、これまでの危機は10年程度に1度は起きています。バブルの崩壊後に中央銀行の金融緩和を経て、新たなバブルが生まれ、また崩壊に向かう。私たちは今もその繰り返しの過程にいるということを、決して軽視してはいけないでしょう。私もリーマン・ショックのような危機が起こるとは思っていませんが、ブラック・マンデー程度の危機は2018年~2019年に起こってもおかしくはないと考えているからです。

(4)日本株は先進各国と比べて割安であり、予想PERで計算すれば3万円を付けてもおかしくないという意見が2017年末あたりから勢いを増していましたが、日本株はPERよりも米国株との連動性のほうが強いので、米国株が割高な状態のまま3万円を目指すことはありえません。2018年にNYダウ平均が大幅な調整をするという仮定に立てば、それに引き寄せられるように日経平均も売られるという見方のほうが妥当なように思われます。

(5)NYダウ平均が26000ドルにまで達してしまっては、割高という水準というよりは、プチバブルの水準に入ってきたといってよいのかもしれません。米国株が上がれば上がるほど、上昇ピッチが速ければ速いほど、その反動が大きいことを意識せざるをえません。ウォール街の投資家の多くは音楽が鳴り止むまで踊り続けるつもりであり、音楽が鳴り止んだ途端に舞台から降りる準備もできているといいます。そのような話を聞いていると、相場の潮目が変わった途端にパニック的な売りが出るのではないかと心配になっています。

次に、今後の対応方法については、以下の3点に留意したいと考えています。

(1)株価がさらなる暴落へと続くのか、あるいは反転してくるのか、そのカギを大きく握るのは、・・・・(以下、省略)


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